言うが早いか、ロディは俺の襟首を掴んだ。
そして――。
【ディック】
「わっ! わ、わた、わわわぁ〜っ!
お、落ちる! 落ちるって!!」
足をいくらジタバタさせても、地面へは届かない。
さながら、海水浴の最中に沖へと流されてしまったかのようだ。
【ロディ】
「大丈夫だって。ちゃんと掴んでるから」
【ディック】
「そういう問題じゃないって!
大体、何でわざわざ空飛んで行かなきゃなんないんだ?
お前が手を滑らせて、落っこちたりしたらどうするんだよ?」
【ロディ】
「平気平気。ボクは慣れてるから」
【ディック】
「ほ、本当だろうな? もし落ちたりしたら、化けて出てやるぞ?
絶対だからな」
【ロディ】
「……おぉ〜っと、手が滑ったぁ!!」
不意にロディの手が離れ、俺の足元の重力が消失する。
【ディック】
「わっ、わわっ……! うわぁああっ!!」
俺は必死に空を掻き、じたばたと身体を捩らせた。
だが、掴める物などある筈も無く――!
駄目だ! もうおしまいだ!
俺の身体はこのまま、地面めがけて叩きつけられるっ!
きつく目をつぶった瞬間、ロディの暢気な声が耳へと飛び込んできた。
【ロディ】
「……な〜んちゃって。びっくりした?」
再び目を開ける。
そこには、おかしそうに笑うロディの顔があった。
【ディック】
「……こういう場所でその台詞は、シャレになんないぞ」
全身をぎこちなく強張らせ、精一杯の抗議を口にするが、ロディは涼しい顔でのたまった。
【ロディ】
「キミがボクを疑うような事を言うからだよ。
手、離したりするはずないだろ?
キミはボクの友達なんだから」
【ディック】
「……そう言うけど、世の中には万が一って事もあるじゃないか」
【ロディ】
「ボクに限っては、ないよ。
目の前で友達を死なせるなんて、あり得ない」
【ディック】
「どうしてそんなに自信満々なんだ?
いくらここが常識からかけ離れた世界でも、人が死ぬ事はあるんだろ?」
【ロディ】
「あるね。だけど、ボクの目の前では起こらない。
だって、ボクがキミを助けてあげるから」
【ディック】
「俺がロディの友達だからか?」
【ロディ】
「友達でも、そうでなくても。
ボクの目の前に、『死』なんて物は存在しない。
今までも、これからもずっとね」