これは、長く続いた戦いの日々も終わり、平和が戻った後のお話――
「なあ、青樺」
「元堅、どうしたんだ? 神妙な顔して」
「こうやって緑の中にいると思い出さないか? 二人きりで続けた旅の日々のことを」
「そうだな……」
「俺は、この頃無性にあの頃が懐かしい」
「なんだよ? 老人みたいだな」
「そうか? 老け込んでるつもりはないんだが」
「元堅は元からおっさんくさいからな」
「こら、茶化すな! 感慨にふけってるって言うのに」
「悪い」
「なんだろうなあ……あの頃と比べて、今があまりに幸せだからかもしれんな」
「幸せ、か。そうだな。喪ったものはもう戻らないけれど、その痛みさえ、なぜか大切なもののように思える」
「痛みがあるからこそ、愛していたのだと、今も愛していると実感できるからな」
「そうだな……」
「だからって、お前のことを愛してないわけじゃあないぞ」
「わかってる。だって、痛みは必要ないだろう? 元堅は、こうして今ここにいるんだから」
「ああ。青樺、お前は今こうして俺の目の前にいる。それでいい」
「俺も。だから、もう戦なんか起こらないでくれればいいと思う」
「俺たちがそうすればいいんだ。そうだろう?」
「そうだったな」
「そうだ。俺たちには、心強い仲間もいることだし」
「そうだな。きっと俺たちならできるよな」
「できるさ、きっと……」
穏やかな笑みを交わす二人を温かな春の日差しが包んでいた―― |