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【ディック】
「……これ、全部お前が育ててんのか?すげえな」

【ヨアン】
「育てているというより、育てさせられてるという感じですね……」

【ディック】
「? どういう意味だ、それ」

と、質問をぶつけようとした矢先に。

【植物A】
「おいヨアン、早く水をよこせ!!
  せっかく日当たりがいいのに、栄養を蓄えられないじゃないか!」

【ヨアン】
「す、すみません! 今すぐ……!」

【植物B】
「あ〜、アタシは今日は遠慮しとくわ。
  あんまりガブガブ飲み過ぎて根腐れ起こしてもまずいし」

【植物C】
「ああ〜、リンが足りない!!
  過リン酸石灰を下さい! 初めての実が、出来そうなんですっ!」

【ヨアン】
「あ、は、はい、ただいま!」

【ディック】
「こいつら、喋るのかよ……。
  まあ、ぬいぐるみとホウキが喋る時点で、もう何が出ても驚かないけど」

 

【ヨアン】
「ノースブルック先生が、喋れるようにして下さったんです。
  この方が、世話をしやすいからって」

まあ確かに。
足りてない栄養素とか水やりの時期とか、喋って教えてくれるのは
分かりやすいよな。

植物って物を言わないから、原因も分からずいきなり枯れたりするし。

【ディック】
「そのノースブルック先生って、植物が好きなのか?」

【ヨアン】
「どうなんでしょう?
  どちらかというと、植物も動物も同じようにお好きみたいですけど」

【ヨアン】
「極端な話、あの方は、
 目に映る物全てを研究対象と考えてらっしゃるんだと思います」

【ディック】
「目に映る物全て?
  足元に転がってるような石コロでも、か?」

【ヨアン】
「はい。
  石コロを細かく刻んで、その身体の作りを研究したりしてましたよ」

【ディック】
「……よっぽど変わり者なんだなあ。
  そんなの研究して、何が楽しいんだろ?」

【ヨアン】
「さあ……?
  僕はノースブルック先生じゃないから、分かりませんけど」

【ヨアン】
「先生は、物をバラバラにしたり、
  別の物に置き換えて考えるのが好きなんだと思いますよ」

【ディック】
「別の物に?」

【ヨアン】
「記号だとか、異国の言葉とか、その存在その物とか。
 そうですね、たとえて言うなら……」

【ヨアン】
「正面から見た姿だけじゃなくて、横顔や切り刻まれた姿、
笑顔だけじゃなくて怒り顔や泣き顔も全て見たいと考える人なんですよ」

【ディック】
「人並み外れて凝り性で、知りたがりって事か?」

【ヨアン】
「だと思います。
 だからこそ、普通の人にはできないような研究を続けられたんでしょうけど」

【ディック】
「ふーん……」

正直、こうして聞いていても、ノースブルック氏の人物像が掴めない。
一体、どんな人なんだろう?

【植物C】
「ヨアンさ〜ん! 肥料ですよ、肥料!!
  追肥のドーピングをお願いします!」

【ヨアン】
「あっ、は、はい! ただ今……!
  ただ、まだ水やりが終わらなくて……」

【植物B】
「アタシに葉水をお願い〜!
  昨日から葉ダニがいっぱいついてて、痒くてしょうがないんだから〜!」

【ヨアン】
「え、えっと、えっと……!
  肥料は、どちらの方に差し上げればいいんでしたっけ……?!」