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それは木の葉が散り、冬の気配が近付き始めた ある黄昏時の事だった。

【ディック】
「あ〜、まずいまずい! 間に合わねぇっ!!」

俺はかつてないスピードで、もう随分高くなった寒空の下を爆走する。

【ディック】
「ただいま〜!!」

ドアを乱暴に引き開けて家の中に飛び込むと、
母さんのしかめっ面が出迎えてくれる。

【母】
「あらあら、ディック! そんなに乱暴に、
 ドアを開け閉めしないでちょうだいな。
 安普請なんだから、ぶっ壊れちまうよ」

【ディック】
「あ、悪い! 次から気を付ける。
 ところで、今何時だっけ?」

【母】
「5時だけど……。
 学校が終わってから今まで、一体どこをウロついてたんだい?」

【母】
「遊んでばっかりいないで、たまにはピートやサラの面倒を見てやったらどう?
 お兄ちゃんだって自覚が足りてないよ」

【ディック】
「あ〜、ハイハイ。明日からやるよ、明日から」

【母】
「母さんだってね、メグばあちゃんの面倒を見なくちゃいけなくて、
そりゃもう目が回るほど忙しいんだから」

【母】
「まったく、年寄りっていうのはどうして
ああやって同じ話ばっかりするのかねえ……。
まるで子供に戻っちまったみたいにさ」

……ああ、始まった始まった。
また母さんの愚痴が始まったよ。

隣町に住んでるボケた{祖母:ばあ}ちゃんの所に通って
面倒を見る日々が続いてるせいだろうか、
近頃、特に愚痴や説教が多い。

まともに付き合ってたら、2時間3時間は拘束されそうだな。

――よ〜し。

【ディック】
「それじゃ俺、ちょっと出かけてくる!
 晩メシいらないから、ピートやサラに、
 俺の分やっといてくれよ。そんじゃ!」

【母】
「あっ、ちょっと……!」

引き止めようとする母さんを振り切って、
俺は家を飛び出した。

【ディック】
「っと、いけね!
 大事な相棒を忘れるとこだった!」

【母】
「あっ、戻ってきたね!
 あんたはどうしてそう、わたしの話を最後まで
 聞かないんだい!」

【ディック】
「聞いてる、聞いてる!
ちょっと忘れ物しちゃってさ」

俺は自分の部屋の枕元に置いてある小型のラジオを、ひょいっと掴んだ。

そして、慌てて階下へと駆け戻る。

【母】
「こら、待ちなさいっていうのに!
 今度こそわたしの話を……」

【ディック】
「帰ってから聞くって、帰ってから!」

カンカンになってる母さんの声を振り払い、
俺は再び走り出した。

今日は、年に1度の村祭りの日。

何もかも忘れ、賑やかな時を楽しめる日。
俺にとって大切な日なんだから。