目と目を合わせてうなずきあった二人は、それぞれ自分の世界に集中し始めた。

朱緋真は、一心に呪文を唱えている。

俺の聞いたことのない言葉だった。

その間、氷霧は、まばたきもせず、じっと空を見上げている。

俺は、息をのんで、二人の様子を見つめた。

元堅も、李暫嶺も、じっと二人に注目している。

そして、朱緋真の呪文が終わった瞬間。

辺りが急に暗くなり、荒れ狂う嵐とともに、一匹の巨大な竜が現れた。

荒々しいうなり声を上げた竜は、その背に朱緋真を乗せて、勢いよく空に舞い上がっていく。

とどろく稲妻に輝く白い体は、冷たい月の光を集めて作り上げたようだ。

敵兵たちは、呆然と突然現れた竜を見上げている。

そんな敵の頭の上から、激しい雨風に混じって、固い氷の塊が、バラバラと降り注ぐ。

あっという間に、敵たちは大混乱に陥った。

逃げ惑い、闇雲に剣を振り回し、矢を射かける。

だけど、空を飛び回る竜の固いうろこは、矢を簡単に弾き飛ばした。

太い尾を振り回す度、敵の放った矢がまるで雨のように地上に落ちてくる。

 

【青樺】

「すごい・・・・・・」


 

それしか、言葉が出てこなかった。

 

【元堅】

「こんなのができちまったら、攻撃する必要ねぇじゃないか」


 

元堅も、呆然とつぶやいた。

と、そこへ、敵の一人が転げるように、こちらに逃げてきた。

瞬間、はっとしたように、自分の体を見る。

その体は、嵐の真ん中にいたと言うのに、少しもぬれていなかった。

 

【敵兵】

「ぬれてねぇ・・・。幻か。おい、幻だ! 幻だぞ!」


 

自分の陣地に向かって走り出そうとするその兵士を、

ものも言わずに接近した李暫嶺が切り倒す。

それでも、何人かの敵兵は、仲間の声に気付いたようだ。

幻なら怖くないとばかりに、前進しようとする。

その瞬間、空から舞い下りてきた竜が、太く長い尾で、兵士をなぎ払った。

バシンッとすごい音がして、兵士が二、三人吹っ飛ぶ。

さっと、敵兵たちの顔色が青ざめた。

 

【朱緋真】

「これで、幻じゃないってわかっただろ?」


 

朱緋真がにっと笑って、呪文を変えた。